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NEWS

12/6/13
書籍「社労士が見つけた!(本当は怖い)採用・労働契約の失敗事例55」6/13発売しました。
12/3/28
書籍「社労士が見つけた(本当は怖い)解雇・退職・休職実務の失敗事例55」3/28発売しました。
11/12/21
書籍「税理士が見つけた!(本当は怖い)事業承継の失敗事例33」12/21発売しました。
11/11/2
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書籍「公認会計士が見つけた!(本当は怖い)グループ法人税務の失敗事例55」発売しました。

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アルコール依存症はクリニックで回復する改定版はコチラ

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アルコール依存症はクリニックで回復する
~高田馬場クリニックの実践~

新貝憲利(監修)
世良守行(編著)
米沢宏(編著)

アルコール依存症はクリニックで回復する

なぜクリニックなのか

入院治療から外来治療へ

 日本のアルコール依存症の治療は、1970年代から大きく変化した。アルコール依存症専門の治療病棟を持つ病院も増加し、依存症者の治療は精神科の一般病棟から専門病棟 へと変わっていった。さらにまだ一部ではあるが、アルコール専門クリニックの出現は、アルコール依存症の治療の場を精神病院から地域のクリニックヘと移しつつある。患 者にとって必ずしもイメージのよくない精神病院からクリニックヘの治療の場の変遷は、アルコール依存症の人たちの受診行動を、今までよりもずっと容易にした。
 アルコール依存症者の多くが、様々の家庭内問題や身体的症状を抱えながら日々生活していることは、想像に難くない。彼らの飲酒の上での言動は、家族や周囲の人たちに 多くの問題を投げかける。そして家族や周りの人たちは、ついには彼らの隔離を望むような立場に立ち至った経験を持つのが現実である。
 ところが、このような問題をはらむアルコール依存症という病気は、これまではクリニックでの治療は困難と考えられ、多くは期待されていなかった。しかし、社会変化に 伴うアルコール依存症の増加は、次第にアルコール専門クリニックの開設を促し、ひいては外来診察で断酒を継続したり、精神科に入退院を繰り返してきた人も断酒を継続し たりと、クリニックに通院するアルコール依存症者の回復が実証されるようになってきた。むしろ、アルコール依存症の治療は、地域で生活しながら治療を継続することで問 題への気づきが早まり、治療の効果も上がる。つまり、身体的に通院が可能であれば、地域で日常生活を続けながら治療を継続することが、効果的であると考えられるように なったのである。
 クリニックに受診するアルコール依存症者やその家族の、「精神病院だったら受診していなかった」とか「仕事を休まないで治療できるから」「通院に便利なので」などの 言葉を聞くと、患者にとってはイメージやアクセスの点からも、クリニックが身近に感じられるのではないかと思う。
 アルコール依存症者には、今までどおりの生活を続けながら治療を受けた方が、効果が上がる人たちが大勢いる。そうした人たちは、クリニックで知識を学び地域でその実 践を試みることで効果的な回復が期待される。つまり、アルコール依存症の回復は、アルコールから逃避するのではなく、アルコールが身近にある場所―地域で断酒を継続す ることが大切である。
 私は成増厚生病院を辞め、その後、あるアルコール専門クリニックで働いたが、当時は、看護だけではなく、クリニックのアルコール医療自体が手探りの状態であった。保 健所などでは「アルコール依存症は難しくて、私は関わりません」などと公言する保健婦もいた時代であった。
 アルコール依存症の治療が、クリニックでも可能であることをまず保健婦から知ってもらう必要があると考えた私は、保健所を回りアルコール専門クリニックの説明をして 歩いた。ところが、そこで私が感じたことは、くクリニックでアルコール依存症の治療が本当にできるのか〉という疑いの雰囲気であった。私が話し終えると、保健婦たちは 「それで、病院の紹介はしてくれるのですか」というのだった。私はがっくりと疲れを感じた。
 その頃、保健所からはよくこんな電話が入ってきた。
 「保健所に飲酒してきて困っているので、クリニックに行かせましたので……」と。私はそのつど、くクリニックは酔っぱらいのためにあるんじゃない〉という思いが頭の 中を駆けめぐったが、こんな時こそ専門クリニックの役割を知ってもらうチャンスと、気持ちを入れ代えて応対したことも数え切れないほどあった。
 また、ある保健所からはこんな電話が入った。
 「離脱症状の出ている人がいるのですが、精神科への入院歴もあるのでアルコール専門病院へ入院させたい。しかし、1週間ベッドが空かないので、その間外来で診てくれ ないでしょうか」
 そして、その日Aさんが奥さんに連れられてクリニックにやってきた。Aさんはたしかに離脱症状は少しあったが、通院できない状態とは思われなかった。
診察の結果、点滴と毎日通院することが決まった。
 Aさんはそれから3日間、妻に付き添われて来院した。そして、4日目からは一人で通院するようになった。さらに1週間経った頃、再び前の保健婦から電話が入った。
保健婦:アルコール病棟のベッドが空いたので、Aさんを入院させたいのですが。
S  :Aさんは離脱症状もなくなり、毎日通院してミーティングにも出ていますので、今更入院の必要はないのではないですか。
保健婦:Aさんは以前にも精神科で治療を受けていますし、今回は専門病院に入院した方がよいと思います。
S  :私は、今のAさんはクリニックの治療で十分と思いますが。
保健婦:今はいいけれど、通院の途中で飲酒したら家族が困ります。せっかく専門病院に予約ができたので、この際集中的な治療をした方がいいと思います。
 いくら説明しても、保健婦は納得せず入院を求めた。このときも私は、アルコール依存症の外来治療がまだまだ理解されていないことを痛感した。それでもこのケースでは Aさんが自分で入院を断り、その後3ヵ月クリニックに通院し社会復帰していった。

本文中の「高田馬場クリニック」は現「慈友クリニック」となっております。